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朝に降り落つ時雨に蛙

東方Projectの二次創作サークル「まいしぐれ」クオンのblog。

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  • 04/26/14:18

小さなスイートポイズンと都会派魔法使いの話。‐Sweet Toxic‐

アリスとメディスンのif小説です。大体5000字程度。
「もしメディスンがアリスの作った人形だったら」
事の発端は花言葉ラミカ・メディスンの2Pカラーが極めてアリスに似ていたことから。
いずれは冊子に収録したいと思っていますが、
今のところ目処が立たないためこちらで公開させていただきます。
読みづらいと思いますが感想など頂けたら嬉しいです。
 



「・・・出来たわ!」
これが、彼女達の出逢いの始まり。

【小さなスイートポイズンと都会派魔法使いの話。-Sweet Toxic-】

 
 窓の向こうの濃藍が一層深まる頃、ランプを一つ点けた薄暗い部屋に月明かりが差し込んだ。
それは完成を祝うように彼女を照らす。
光に煌くブロンド、透明感のある白い肌、夜空にも似た深い青を湛えた瞳の少女。
―アリス・マーガトロイドは出来たばかりの人形を掲げ満足気な笑みを浮かべた。
 完成した人形は腹話術師が使うような大きめのものだ。彼女が好んで使う小柄な人形ではない。
人形は丁寧に縫われたドレスを身に纏っており、愛情が注ぎ込まれているのが一目でわかる。
頭部にはドレスと同系色のリボンが配らわれ、愛らしさに花を添えていた。
まさか大道芸の新ネタなのだろうか、この人形だけが異彩を放っていた事は間違いない。
 「これで、私の仕事も少しは捗るかしら。」
アリスはそう呟くと、机に人形を静かに置き、精根尽きたように机に突っ伏す。余程疲れているのだろう。
そのまま、すやすやと寝息をたてて眠ってしまった。表情は未来への期待に満ち幸せそうに見えた。
そんなアリスの姿を人形は見つめる。仕事を捗らせるために作られた人形。
仕事とは大道芸のことか。実際ショーで儲けているらしいといった情報もあるが、そうではない。
アリスの生業は魔法使いであり人形師である。人形を魔法の糸で操って家事から戦闘まで行うのだ。
全て自分で操るものだから当然手が足りなくなったりもする。その度に彼女は「人形遣い人形」を作り、便宜化を図ってきた。
完成した人形もまた「人形遣い人形」であるようだ。腹話術人形より小さなものが一緒に置いてある。
しかし、何度も言うように新しく出来た人形は特殊であった。
つまり・・・そう。
彼女と人形はあまりにも似すぎていた。

 翌朝、朝日と共にアリスは目を覚ます。
元々、睡眠をとらなくても問題ない身なので、夜明けまでの時間潰しに眠っただけなのだろう。
或いは人間だった頃の感覚で夜の魔法の森が少々薄気味悪いからなのだろうか。
「さあ、研究成果を試すわよ!」
開口一番、意気揚々と立ち上がると反動で椅子が倒れた。
いつもなら几帳面にすぐ元に戻すが、今日は椅子に目もくれず、
机の上の人形を手に取り、胸に強く抱きかかえ、森へと飛び出すのだった。ご機嫌な足取り、少し鼻歌混じりだ。
 拓けた実験場。雲一つない晴天。鬱蒼と生い茂った魔法の森にかかる柔らかな陽光のカーテン。
普段、日光が地面まで届かずに、湿気っぽく、茸が群生しているような森で
こんな景色は長年生活しているアリスも見たことがなく、何もかも全てが味方をしているようだった。
指ぬきを両手両指にはめて、人形をそっと手前に置く。深呼吸、頷き一つ、準備が整う。
タイミングよく洋館に備え付けられた鐘が響いた。6時。鐘の音が実験開始の合図。
慣れた手つきで魔法の糸を使い、くいっと引いてみる。人形の身体がふわりと宙に舞いあがり、人形が人形を操る。
生きているかのような動きはいつも通り。魔力を注ぐたびに動きは滑らかさを増す。
会心の笑みを浮かべ、舞曲を踊るように人形を操り続ける。
"彼女は私のあとを付いてきてくれる"―出来は申し分ないように思えた。
が、結論は失敗に終わった。

 誰だってもう一つ体が欲しいと思ったことがあるはずだ。アリスもまたそう考えた。
最近は魔法使いとして大分強くなった。魔力を人形に送り込めば動くことは実証済みだった。
だから意思を持った人形が創れるのではないかと思い立った。だが生命を宿す能力は持っていなかった。
 ぶち・・ぶちっ!プツン。パァァァン!
辺りを巡った糸が悲鳴をあげた。爆ぜる。粒子が散った。人形を繋ぐものは無くなり、自由へ解き放たれる。
 糸を断ち切られた人形は宙に投げ出された後に木に引っかかり、激しく落下する。
アリスは手を施す術もなくただ経過を静かに見つめている。悲しみとも怒りとも落胆ともつかない冷淡な眼差し。
裂傷が人形の腕に、体に拡がり、泥に埋もれる。かろうじて原型は留まったものの、もはや見れたものではなかった。
アリスはゆっくり人形を拾い上げると泥を拭う。自分とは違う、紅いドレス。人形は自分と同じにはなれないことを悟る。
 せっかく一番気合を入れて作り上げた作品の無残な姿を見るのが苦しくて、彼女は無名の丘に弔いの意味を込め捨て置くことにした。
鈴蘭に抱かれ安らかに眠っていった子供と一緒なら寂しくないだろうと。まるで子を思う母のような思いだった。
丘から去り行く背を人形は悲し気に見つめた。「完成したときはあんなに喜んでいたのに、どうして・・・」やるせなかった。
無名の丘から立ち去るアリスは迷いを振り切るように踵を返す。
その夜は人形を思うと心が痛み、涙が枯れるまで泣いた。

 長い月日が経った。今年は色んな花が咲き乱れているという。花が咲く季節が来る頃、アリスはいつも思い出した。
狂い咲く鈴蘭の丘を、捨てた人形の事、自らの過ちを。そして人形の幸せを願った。
「おい!アリス!入るぜ!」
紅茶を飲みながら物思いに耽っていると魔理沙がドアを開け、勝手に入ってくる。異変の報告に来たのだろう、容易に察しがつく。
「それがさ、見たか?凄いんだよ、私もびっくりしたな」
魔理沙は近くの椅子に荒っぽく腰をかけ、今回の異変について話し始める。
「何が凄いのよ。大体いっつも魔理沙は主語が無い・・・」
話に耳を傾けながら、アリスはお茶を出す。
「まあまあ。説教は聞き飽きたぜ。さっきも閻魔様に説教されてな。でなー・・・」
聞けば向日葵や彼岸花、紫の桜が咲き乱れていて見事だったという。引きこもっていて見ないのは勿体無いから見ろと教えてくれたのだ。
あとは説教がどうのこうの、死神がさぼってどうのこうの。
あまりに話が長いのでアリスは軽く聞き流していた。
「で、鈴蘭の咲く丘におかしな人形が居て、出会い頭に毒で攻撃されたよ、参ったな。」
「今なんて!?」
アリスは体を起こし、驚いて目を見開く。不意に置いたティーカップがカタンと音を立てる。
動揺がはっきりと見て取れた。
「おいおい・・・急にどうしたんだ?人形が居てな、確か名前は・・・メディスンとか言ってたな。」
「メディスン・・・」
心に留めるように、ぽつりと名前を呟く。
引いていく血の気、泳ぐ視線、下がる眉、徐に下唇を噛むアリス。
その間も魔理沙は身振り手振りを交えながら喋るのをやめずにいた。
話し続けて喉が乾いた魔理沙が出されたお茶を一滴残らず飲み干すと、冷静さを欠くアリスの姿が目に映った。
「アリス?何か変だぜ?じゃあ、私は帰るからな。」
「あ、…ええ。またね。」
一しきり話し終わった魔理沙は満足して出て行く。
アリスは魔理沙が帰るのを見送りながら閉まるドアを見詰め立ち尽くす。
メディスン・メランコリー。
魔理沙が教えてくれた人形のフルネームを反芻する。
胸騒ぎが抑えきれなくなり、気づけば彼女は無名の丘へと向かっていた。

 無名の丘。二度と来ることはないと思っていたこの丘に、アリスは立っていた。
今日もまた人形を捨てたあの日みたく、狂ったように鈴蘭が咲いている。
涼しい風が鈴蘭を揺らす。人里から隠れるように静まり返った薄暗い丘にアリス以外の人影はあるはずも無かった。
「どこ!?メディスン?どこなの?」
広い、広い鈴蘭畑を、駆ける、駆ける。しかし見つからない。
何時間探し回っただろう。気づけば辺りは毒霧に覆われていた。そんな事は眼中にないほど夢中で探し回った。
強烈な香りに毒され、身体に力が入らなくなってきたアリスは、ついに座り込んでしまう。
少し、休憩しよう。長いため息をつき、重くなってきた瞼を閉じる。その時だった。
「人間・・・」
声がした。確かに、声を聞いた。小さな、女の子の声。
―メディスン…メランコリー・・・心の中で名を呼ぶ。
アリスは遠退きかけた意識を引き戻す。
「スーさん、人間じゃないわ?あなたは誰?」
アリスは朦朧としながら目を開く。少女だ。首を傾げて顔を覗き込んでいる少女が居る。
青と青の視線がぶつかった。
「アリス・・・アリス・マーガトロイドよ。貴女は?」
毒にやられながらも何とか唇を動かし言葉を紡ぐ。
「メディスン。こっちはスーさんよ。あなたも鈴蘭を採りにきたの?」
―メディスン、ああ、やはり貴女が・・・。アリスは確信して深く頷く。
何かを決心したようだった。そして、はっきり目を開き、少女の姿を捉える。
ブロンド、白い肌、青い瞳。アリスと対照的な深紅のドレスにリボン。見覚えのある姿だった。
「そう―メディスンというのね。いいえ、鈴蘭を採りにきたのではないわ・・・」
見覚えのあるどころか、紛れもなく彼女自身が作りあげた人形だった。
失敗し確かに壊れたはずの人形が別の人形を操り、今まさに目の前で意志を持ち話している。
それは、アリスが夢にまで見た未来。
「鈴蘭を採りにきたんじゃない?あ、わかった。私の毒コレクションを見に来たのね!
 少し分けてあげてもいいわよ」
「いいえ・・・違うの。」
そう言うと、アリスは力の抜けた身体を起こし、地面に手をつき、立ち上がる。
「迎えにきたわ」
「えっ」
驚くメディスンの前に、アリスは震える手を差し出す。
差し出された華奢な腕には明らかに血の気が通っていなかったものの、精神一つでしかと支えられていた。
「一緒に、ここから出ましょう」
「・・・あなたは、私の味方になってくれる人?」
メディスンは手をとることをせず、上目で問いかける。
アリスは問いに答えず視線を落とす。鈴蘭がさざめいていた。
暫しの沈黙の後、アリスが重い口を開いた。出てきたのは謝罪の言葉だった。
「・・・ごめんなさい。」
「どうして謝るの?」
「ここに貴女を捨てたのは私なの。」
「――!!」
「そして、貴女を作ったのも私よ。」
「嘘・・・」
再び沈黙が流れる。
またも先に口を開いたのはアリスだった。
「許してくれるとは思っていないわ。でも・・・生きていてよかった。」
メディスンは下を向いてただ黙りこむ。
恨みと憎しみ、再会の喜び、悲しみ、喜怒哀楽がないまぜになってどうしたらいいかわからなくなっていた。
「メディスン・・・ねえ、貴女は一人で寂しくない?」
優しく語りかけるアリスの言葉がメディスンの胸を締め付ける。
彼女はこんなにも自分を思ってくれる人が居たことを、その時初めて知った。同時に、他人の痛みを初めて感じた。
味方を作ることを遠ざけて、独り強がっていたことを改めて思い知る。
この人なら信じられるかもしれない。
「・・・アリス。」
初めて名前を呼ぶ。どこか暖かい響きだ。
「何?メディスン。」
応じるようにアリスも名前を呼ぶ。
「一緒に、行く。」
メディスンの小さな手がアリスの手をとった。アリスはその感触を確かめるようにそっと握り返す。
二人は鈴蘭の咲く丘を後にする。満面の笑みで手を繋いで歩く。
珍しく太陽光が差し込んで、祝福の鐘が鳴っているように見えた。
魔法の森と無名の丘の人形遣い。
アリスとメディスン、二人はあまりにも似すぎていた。
薄暗く不気味なところに、もう独りじゃない。

「行きましょう。」
「うん!」
これが、彼女達のこれからの始まり。

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